備瀬
び せ

植栽の計画性

近年、フクギの集落として観光PRが行われている備瀬。集落全体で18,000本を数えるフクギは、一見無秩序に植えられているようですが……。

【1】うっそうと茂るフクギの森に飲み込まれるかのように、備瀬集落はあります。
【2】フクギは各家の西と北で
濃く植えられています。西は東シナ海からの海風を防ぐため、そして北は冬期の季節風を防ぐためです。
【3】対照的に家の南側にはフクギを植えないため、このように主屋もよく見えます。森のような備瀬の屋敷林は、実は計画的な植栽によって生まれたのです。

美ら海(ちゅらうみ)水族館のある沖縄海洋博公園に隣接する備瀬集落は、「沖縄一のフクギ並木」をうたい文句に、近年盛んに観光PRを行っています。集落内には土産物屋が多く、レンタサイクル店もあって、海洋博公園から一歩足を伸ばして散策する人を多数見かけました。


集落最古のペーチン一族の屋敷のフクギ並木

フクギは備瀬のみならず、沖縄全土で植えられている庭木です。高さはおよそ20メートル。幹は直立し、根元近くから枝葉を茂らせることから、防風・防潮・防砂・防火にすぐれ、琉球王府は18世紀からその植栽を奨励してきました。

フクギの原産地はインド。司馬遼太郎は『街道をゆく 沖縄・先島への道』で「沖縄の大航海時代の唯一の名残りといっていいかもしれない」と記しています。


フクギに囲まれたペーチン一族の家


緑が濃すぎて家並みが見えない

備瀬のフクギ並木は沖縄最大規模であることもあって、古くから調査・研究されてきました。琉球大学の安藤徹哉教授、沖縄大学の小野啓子教授が2004年に行った調査では、それまで「数千本」といわれてきたフクギが18,143本であることや、乾隆2(1737)年の地割土地制度導入に前後して植えられるようになったことが判明。また、集落全体では幹周りの細いフクギが多いことから、現存する木の大半は1879(明治12)年の沖縄県設置後のものであるとも推測されました。

枝葉の間から辛うじて家が見える


赤瓦の伝統的な家屋も現存する

両氏が調査した集落で最もフクギが多かったのは渡名喜(となき)島の渡名喜集落で、20,172本を数えました。しかし1区画あたりの平均本数が最多だったのは備瀬で、65.5本でした(渡名喜は63.0本)。
備瀬のフクギは非常に密に植えられており、集落に一歩足を踏み入れると、緑の濃さに戸惑うほど。これを数値で示されると、いっそう備瀬のすごさを感じます。


【住所】沖縄県国頭郡本部町備瀬
【公開施設】なし
【参考資料】
「沖縄島本部町備背集落における福木屋敷林の実態」安藤徹哉・小野啓子著、『日本建築学会計画系論文集』第73巻630号(2008年8月)所収
「沖縄島およびその近海離島における福木屋敷林の地域特性」安藤徹哉・小野啓子・凌敏著、『日本建築学会計画系論文集』第75巻657号(2010年11月)所収

2014年7月5日撮


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