東筋
あがりすじ

八重山民家の標本箱

東筋は黒島の中心集落。白砂の道にサンゴ石を積み上げた石垣が続き、その中に方形の木造古屋が建っています。ここは八重山諸島で最も典型的な集落景観を残す場所といえるかもしれません。

【1】平屋建てで軒が低く、石垣で囲まれた沖縄の家。台風の大雨や強風の影響を減らすための工夫です。
【2】雨の国でありながら、雨どいがありません。沖縄には雨どいに適したモウソウチクが自生していないのです。
【3】雨が吹き込まないよう、軒が深いのも沖縄の家の特徴。こうした軒を雨端(あまはじ)といいます。

ハート型をした平坦な島、黒島。人口は202人(2014年2月現在)で、その10倍の2,200頭の黒毛牛を飼育する畜産の島です。ほぼ全域が牧草地になっていて、集落はそれらの間に点在し、東筋は島中東部に位置します。戸数はおよそ50。

東筋は沖縄の典型的な集落景観をよくとどめています。道路は水はけをよくする未舗装の砂道。土地はサンゴ石を積み上げた石垣で正方形に区切られ、その中に赤瓦葺きの民家が建てられています。

今回の沖縄旅では黒島のほか石垣島、竹富島、波照間島、鳩間島なども訪れました。これらの中で伝統的な姿をとどめた家が多く感じられたのが、竹富島と黒島の東筋でした。
沖縄の家を特徴づけるものといえば島瓦(本土でいう本瓦)です。しかし各離島ではS瓦(桟瓦)に葺き替えられたり、モチ(しっくい)ではなくペンキで固定したり、トタンで葺き直されている家が意外と多く見られました。それだけに東筋に伝統的な島瓦の家がたくさん残っているのには、とても感動しました。


サンゴ石の石垣の中に島瓦屋根の家が建つ


見事な島瓦。軒下に雨どいがない

何より「すごい」と思ったのが、雨どいをまわした家がほとんど見られなかったことです。沖縄には雨どいに適したモウソウチクが自生していないため、本来、軒下に雨どいをまわす習慣はありませんでした。
波照間島や鳩間島などを訪れると、新建材の雨どいを入れる家が増えている様子でしたが、東筋の家は頑ななまでに昔のまま。アルミサッシを入れずに外縁に板戸をはめた家も多く、まさに八重山の集落の標本箱のようでした。

もうひとつ特徴的だと思ったのが、沖縄の家の代名詞ともいえるシーサーやヒンプンをもつ家が少ないこと。シーサーを屋根に乗せるのは、ここ100年ほどの間に普及した新しい習慣ですから、東筋はいまだに古い習慣を残しているといえるでしょう。
ヒンプンに関してはいつごろ広まったのか分かりませんでしたが、同様に昔の屋敷構えをとどめているのかもしれません。


ヒンプンやシーサーをもつ家は少なく、外縁に板戸を入れた家が多い

東筋の家は似ていて一見しただけでは区別しにくい


短期間のうちに少数の大工が手がけた結果なのだろうか


【住所】沖縄県八重山郡竹富町黒島
【公開施設】なし

2014年7月1日撮


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