知覧麓
ちらんふもと
パースペクティブな景観
知覧麓は鹿児島藩の武家町のひとつで、江戸時代中期にほぼ現在の町並みが形成されたと考えられています。表通りの後方に屋敷を建て、前庭を枯山水庭園とした屋敷が多く、国の名勝に指定された7つの庭が一般公開されています。 |
【1】入口に門を建て、その後方に主屋を配置します。 |
東京に限らず日本の町は、伝統的に緑が多くありません。京都を見ても、洛中には町家がぎっしり連なっていますし、各地の宿場町も同様です。町なかに寺社はあれど、広場や公園という概念のない日本において、市街地に緑が少ないのは、ある意味当然のことといえるのかもしれません。 しかし武家町だけは例外。武家屋敷には鍛錬のための庭が確保されました。庭はまた接客空間として飾り立てられ、結果として緑あふれる町並みが生まれたのです。 |
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うねる植栽のリズムが心地よい |
知覧麓は日本の武家町の中で最高の景観を見せてくれます。主屋が現存する武家屋敷は10軒と、決して多くはありません。しかし武家門と植栽による景観美には目をみはるものがあります。生垣はすべて個人宅のものでありながら、表通りでも思い切り存在感を主張しています。 |
平山克己家庭園。庭の一隅に巨石を組むのが知覧の様式 |
佐多直忠家庭園。左の庭に似た雰囲気。借景に母ヶ岳 |
平山亮一家庭園。石組みがなく刈り込みだけで海を表現 |
佐多民子家庭園。飛び石や石塔を配した賑やかな庭 |
佐多美舟家。門の奥に石垣を立て視界をさえぎる |
防衛のため道が90度折れる。茅葺きは公開施設の知覧二ツ家 |
庭木は波打つように刈り込まれています。これは、遠景にある母ヶ岳をかたどったものだといわれています。座敷から眺めれば、庭に石組みの滝が落ち、視線を移せば表通りと画する生垣があって、さらに借景として母ヶ岳がそびえる。どこを切り取ってもこれほど劇的にパースペクティブ(遠近法的)な景観を見せる町が、果たしてほかにあるでしょうか。 | |