木野
き の

里のかなたに祖母横たわり

大分県の母なる山並み、祖母・傾(かたむき)山系を見晴るかす木野台地。ここは江戸時代から畑作が営まれてきた場所で、季節風を防ぐ防風林が卓越しています。

【1】木野台地には夏から秋にかけての台風シーズンと、冬季に強風が吹くため、屋敷を防風林で守っています。植栽にはタケやツバキなどが用いられます。
【2】植栽の足元には土手や石垣を築きます。
【3】標高1756メートルの祖母山です。木野台地からは祖母・傾山系の山並みを一望でき、スケールの大きな里の風景が広がっていました。


木野の集落景観

木野台地は豊後大野市の西部、竹田市との市境に近いところにあり、古くから畑作を営んできた地域です。正保年間(1644〜48)の『正保郷帳』には「田高47石、畑高150石」とあり、江戸時代前期にはすでに畑作の村として成立していたことがうかがえます。

木野の集落景観は、一見しただけでは何ということのないように思えますが、どの家も西側に分厚い植栽を施しているのが特徴です。これは西からの冬の季節風を防ぐためのもので、土手や石垣を組んだ上に、ツバキやタケなどを植えています。


植栽が日影をつくる


高々と土手を築いて屋敷地を整地する

道沿いに各家の付属屋が並ぶ

主屋は全体的に古い様子でしたが、外装を手直しした家も多く見られました。しかし付属屋には板張りのものが数多く残され、伝統的な集落景観をとどめています。


トタン被覆の茅葺き民家


右奥は主屋か? 古そうだった

納屋は土手や石垣の上に建て、1階部分は地面をくり抜いて半地下にするものが見られます。同様の建築は県境を越えた宮崎側でも見られました。当地方の伝統的な様式なのでしょう。


納屋


左奥が傾山、右奥が祖母山

なお、木野台地の南側には広大な平野が広がり、その向こうには祖母・傾山系の山並みが横たわっています。九州きっての原始林を残し、その自然的価値は世界遺産クラス*といわれる山並みが目の前に広がる風景の圧倒的なスケールに、たいへん感激いたしました。

*2003年に環境省と林野庁が、世界遺産暫定リストへの記載場所を検討するために行った「世界自然遺産候補地に関する検討会」で、「祖母山・傾山・大崩(おおくえ)山、九州中央山地と周辺山地」が最終候補まで残ったが、惜しくも暫定リストには記載されなかった


【住所】大分県豊後大野市緒方町木野(地図
【公開施設】なし
【参考資料】
『日本の文化的景観』文化庁文化財部記念物課監修、同成社、2005年

2015年5月6日撮影


戻る