松合
まつあい

なまこ壁の坂道

松合は八代海に面する港町。湾岸の富岡往還に沿って古い町家が連なり、そこから内陸に入った春の川沿いの谷に農家が点在する、奥行きのある町並みが特徴的です。

【1】松合は海岸近くまで山が迫る狭あいな場所にあり、この汐見坂をはじめ坂の多い町でもあります。
【2】土地の制約から家屋が密集し、火災が頻発したため、家は土蔵造りで再建されました。
【3】外壁は瓦を貼ったなまこ壁。瓦を水平に並べ、しっくいで八角形に縁取りしている点が特徴です。熊本県に多いなまこ壁の意匠です。

松合は江戸時代に舟運の拠点になったところで、文政年間(1818〜30年)に熊本藩が魚介類を取り扱う役職を設置して以降、いっそうの発展を見ました。安政2(1855)年には舟溜まりや防波堤が完成し、明治時代にかけて熊本随一の漁港として賑わいました。
富岡往還沿いの町並み

富岡往還沿いの町並み

町の最盛期は明治30(1897)年ごろで、そのころここには魚屋、船問屋、味噌や醤油の醸造家が軒を連ねていました。しかし明治32年、宇土半島の北海岸に鉄道(三角線)が開通すると、急速に衰退してしまいました。

町並みを特徴づけるのは白壁の町家です。谷間の狭い土地にある松合では家屋が密集し、火災も頻発しました。明治時代だけでも24年、26年、42年と、40戸以上を焼失した火災が三度起きています。外壁をしっくいで塗り固めた町家は、防火対策のものだったのです。
醤油醸造家、天満屋の建築群

旧屋号・浜村屋。現在は下萬屋の看板を掲げている


傷んだ家も目につく。これはかつての医院


思いのほか茅葺きの家が見られた
街道から内陸へ入ると、道路が不規則に曲がる農村的な景観が広がります。トタンをかぶった茅葺きの家も多く見られました。
松合では2007年より熊本県立大学が町並み調査を始めました。熊本県には現在、“町並みの重要文化財”ともいえる重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)がありません。松合が第一号として選定される日を待ち望みたいと思います。(ちなみに2015年現在、重伝建がないのは東京都、神奈川県、熊本県の3都県)


【住所】熊本県宇城市不知火町松合(地図
【公開施設】松合郷土資料館、松合ビジターセンター(伝統工法による新築)
【参考資料】
『熊本の町並み』財団法人熊本開発研究センター、1982年

2009年12月28日撮


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