勝本浦
かつもとうら

イカ棚は失われて

壱岐島最北端の勝本浦は、かつて捕鯨で栄え、いまはイカ漁の盛んな地。複雑に入り組んだ海岸線に沿って曲がりくねった街路の両側に家が建ち、海には漁船が停泊する、典型的な漁村景観が見られます。

【1】道路は海岸線に沿って大きく湾曲し、その両側に2階建ての主屋が並びます。主屋の裏手に中庭があり、かつてはイカ棚を設けていました。
【2】2階にバルコニーをもつ家が多く、家ごとに異なる手すりの意匠が見どころ。しかし近年、古い手すりをもつ家が減っているようです。
【3】軒を支える持ち送りにも、さまざまなデザインが見られました。

イカ漁の盛んな勝本浦には、かつて水揚げしたイカを干す「イカ棚」が、どの家にもありました。海側の家は敷地と海岸線の間に、山側の家は山裾の斜面にイカ棚を立て、朝ごとにイカを干していたそうです。
町並みは改変が激しいが、海辺に物干し場をもつ家もある

軒下にイカを干していた家
しかしその光景はすでに失われています。イカ棚があった場所は、そのまま物干し場として使われていたり、海岸ぎりぎりまで新しい家が建てられていて、ここ20〜30年のうちに勝本浦の風景はだいぶ変わっていったようです。
海辺の景観とは対照的に、メインストリートに沿って2階家が連なる光景はいまも健在。限られた土地を有効に使おうとする、漁村らしい家並みが見られます。
町並みの中ほどにある藤嶋家住宅は1920(大正9)年以前に建てられた、かつての海産物問屋。1階には長さ4間もの長大な床机(しょうぎ)がしつらえられています。


藤島家住宅は現在、海産物問屋時代の屋号「大久保本店」の名でカフェ営業中


藤島家住宅。床机の長さに驚かされた

1本ずつ手づくりされた2階の手すり(藤島家住宅)

勝本浦の建築で卓越しているのが木部の仕上げ。藤島家住宅でも1階の持ち送りや2階の手すりが、とても優美に仕上げられています。しかし外観を改装する家も多く、伝統的な意匠を残す家は数を減らしている様子でした。

それにしても手すりを設けているということは、2階は客間か座敷として使われたのでしょうか。旅籠や茶屋建築にも似た、独特の外観をもつに至った経緯が気になります。


潮風による腐食を防ぐためか、木部を着色した家もある


波模様と家紋を入れた華美な持ち送り

側壁にレンガを貼った土蔵風の町家


平入りの家が並ぶ。道路は湾岸に沿って湾曲するため見通しがきかない


【住所】長崎県壱岐市勝本町勝本浦(地図
【公開施設】なし
【参考資料】
『復刻 デザイン・サーヴェイ 「建築文化」誌再録』明治大学神代研究室・法政大学宮脇ゼミナール編著、彰国社、2012年

2014年1月27日撮


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