佐久島西
さくしまにし

黒真珠の輝き

周囲11.6キロ、人口およそ260人の佐久島は、細路地に黒板塀の家が密集することから「三河湾の黒真珠」とたとえられます。その呼び名にたがわぬ見事な家並みに出合いました。

【1】西集落の道路は7割以上が幅員4メートル未満。道は不規則に曲がり、分岐するので、この先どこへたどり着くのかまったく読めません。
【2】外壁は板壁とし、コールタールを塗っているため黒くなります。潮風による腐食を防ぐためのものです。
【3】トタンやガルバリウム鋼板で補修された家や蔵もあります。けれども色が黒で統一されているため、町並み景観を乱しません。

佐久島は50基以上の古墳が残る歴史の古い島です。江戸時代には海運業が栄え、その後は海苔養殖などをなりわいとする漁村となりました。島内には西と東の2集落があります。いずれも古い景観をよくとどめていますが、現地のガイドブックで「島内で最も印象的な風景」とあげられているのが、西の通称“黒壁集落”です。


西港の景観。左端は崇運寺(字西側)

長屋門をもつ屋敷構えがよく分かる家(字西側)

家の壁が黒いのは、潮風による腐食防止のコールタールが塗られているため。また、集落内の交差点はほとんどすべてが三叉路で、十字路は1カ所しかありません。名古屋市立大学の瀬口哲夫教授らの研究報告には、「冬季の北風が吹きぬけるのをさえぎる役割を果たす」とあります。


交差点はほとんどが三叉路(字東側)


外壁にはコールタールを塗る(字東側)

路地裏のアート「大和屋観音」(字東側)

佐久島では近年、過疎・高齢化が急速に進み、人口は激減。1990年の493人から、2010には271人と、ここ20年間で半分近くに減ってしまいました。島外資本による投資が行われなかったことが一因とされていますが、そのことは昔ながらの風景を残すことにもなりました。そこで旧一色町(2011年、西尾市に編入)では「祭りとアート」をキーワードにした島おこしに着手。「アートの島」としての知名度が徐々に高まり、観光客も増えています。


古民家を改修した弁天サロンは佐久島散策の休憩スポット(字西側)
島のアート事業では空き家の再生も行われました。2001年の瀬口教授らの報告によると、西集落の空き家は31軒。そのうちの一軒、築100年の大場邸(右)は、まるごとアート作品として再生されました。


2002年以降、少しずつ改修された大葉邸(字西側)


路地裏にレンガづくりの祠が点在する(字西側)

また、島内各所に点在する「佐久島八十八箇所」の祠の整備も行われ、2012年にはスタンプラリーというかたちで復活しました。
これからも島の歴史や景観を生かした再生事業が展開され、将来的には定住人口が増えることを願ってやみません。


井戸が多いのも佐久島の特徴(字西側)


集落有数の豪邸だが、残念ながら荒廃していた(字東側)


【住所】愛知県西尾市一色町佐久島字西側、字東側
【公開施設】弁天サロン、大葉邸
【参考資料】
「過疎化した離島漁村集落の空間特性/三河湾佐久島」瀬口哲夫・玉井秀一・梅津章子著、『日本建築学会大会学術講演梗概集』2001年9月所収
三河・佐久島アートプラン21

2014年12月15日撮


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