東松原
ひがしまつばら

旅籠の巨大化

伊豆きっての温泉街、伊東市は古くから湯治客で賑わいました。東松原には戦前の旅館建築が残され、古き温泉街の風情をとどめています。

【1】狭い路地に木造3階建ての旅館が並びます。
【2】戦前の旅館のシンボルが、入口を飾る堂々たる唐破風(からはふ)です。
【3】客室のある高層部にはバルコニーと欄干、そしてバルコニーを支える持ち送りが見えます。まるで、江戸時代の旅籠を巨大化したような印象です。

伊豆半島を代表する観光地、伊東は温泉の宝庫。湧出量は毎分3万3000リットルで、これは別府温泉に次いで全国第2位です。(ただし自噴量ではなく動力湧出量による計測)。
その歴史は古く、平安時代の文書にも記録があり、江戸時代には「御前湯」として3代将軍徳川家光にもお湯が献上されていました。明治以降は庶民の湯治場として広く浸透し、とくに1938(昭和13)年の国鉄伊東線の開通を機に発展していきました。


伊東大川越しに見る温泉旅館群

ケイズハウス伊東温泉

伊東の旧市街地が東松原で、ここには東海館とケイズハウス伊東温泉(旧旅館いな葉)の2棟が並んでいます。
ケイズハウス伊東温泉は1926(大正15)年ごろに建てられ、いまも温泉旅館として営業中。建物は国の登録有形文化財になっています。道路側からは2階建てに見えますが、裏は3階建ての客室になっています。

東海館は1928(昭和3)年、町内で材木店を営んでいた稲葉安太郎が創業した、同じく木造3階建ての大型建築です。1997年に廃業後は文化財として一般公開されており、贅を凝らした客室や大広間を見学できます。


東海館入口の唐破風


東海館の館内には数奇屋風の意匠がたくさん(葵の間)


山喜旅館

これら2棟からやや離れた場所にある山喜旅館は1940(昭和15)年の創業。外壁はモルタルで仕上げられているため、一見しただけでは「擬古風建築」のようでもありますが、正真正銘の木造3階建て。公式サイトにも「1階から3階までヒノキの通し柱10本で支えられている」と紹介されています。


古いつくりの商家。奥に山喜旅館が見える

東松原から伊東大川を越えた渚町にも古い建築物が点在しています。
伊東東郷記念館は東郷平八郎が夫人のために建てた別荘で、建造は1929(昭和4)年。別荘地・伊東の歴史をいまに伝えています。
かつての交番を観光案内所として利用している伊東観光番は、1958(昭和33)年の建物。静岡県に現存する最古の交番建築だそうで、国の登録有形文化財になっています。


伊東観光番


伊東東郷記念館


【住所】静岡県伊東市東松原町
【公開施設】東海館、ケイズハウス伊東温泉(※宿泊者以外の見学可)、伊東観光番、伊東東郷記念館(※開館日少なく要注意)
【参考資料】
『角川日本地名大辞典(22)静岡県』角川書店、1982年

2014年5月31日撮


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