網屋崎
あみやざき

まるで縄文時代

西伊豆の漁村、安良里(あらり)の沖に、2棟の茅葺き建築がたたずんでいます。周囲に人家さえない岬の突端に、なぜこんな建物が……?

【1】網屋崎は安良里の対岸200メートルほどの場所ですが、橋はなく、船でアプローチするのが一般的です。
【2】古風な茅葺きもすごいですが、何と壁が石組み! 縄文時代の住居を思わせるレトロっぷりです。
【3】出入口は1カ所のみ。実はこれ住居ではなく、漁に使った網置場です。

西伊豆の漁村・安良里の南西には標高302メートルの今山がこんもりとそびえ、そこから北へ裾野が長く伸びています。その先端が網屋崎と呼ばれる岬になっています。安良里はこの網屋崎に囲まれた袋状の湾になっていて、かつてはイルカの追い込み漁が行われていました。漁は明治時代に盛んになり、1882(明治15)年には600頭あまりを捕獲し、地域経済に大きく貢献したそうです。


安良里港は今山の尾根に囲まれた静かな湾だ

大小2棟の網小屋が並ぶ

1961(昭和36)年にはここで捕獲されたハナゴンドウが神奈川県の江ノ島水族館に売られたという記録もあります。イルカは「ヨン」と名付けられ、2003年に死ぬまで、ハナゴンドウの長期飼育記録を更新し続けました。
網屋崎に建つ2棟の納屋は、イルカ漁で使った網を保管するためのもの。その用途から網小屋と呼ばれ、岬の名の由来にもなりました。
解説板には「1986(昭和61)年に茅葺き屋根を復元した」と書かれています。この年に屋根だけを葺いたのか、石壁もろとも新築したのかは分かりません。

ところで、安良里の人々に聞いても、網屋崎へは船で行くしかないとのことでしたが、帰宅後に調べてみると今山を通るハイキングコースが整備されていることが分かりました。そこを歩けば、安良里から60分ほどで網屋崎にたどり着けるようです。
今回は上陸できなかったので(岸壁に藻が茂っていて船を寄せられないのだそうです)、伊豆再訪の折には網屋崎の小屋の内部も見学したいと思います。


外壁は丸石を矢羽積みに重ねている

2棟の間には石壁が見える。何のためのものだろうか

それにしてもこの小屋、傷みが目立ちます。復元からすでに30年近く過ぎていて、ふつうの茅葺き建築であれば葺き替えを検討する時期にさしかかっています。ましてや海岸という湿気の多い土地であればなおさらのこと。
「再訪したところ崩れていた」ということのないよう祈りたいものです。


【住所】静岡県賀茂郡西伊豆町安良里
【公開施設】網小屋(※今回、地元の方のご好意で船に乗せていただきました。渡船や乗船ツアーはありませんので、ご注意ください)
【参考資料】
『角川日本地名大辞典(22)静岡県』角川書店、1982年
漁業漁村の歴史文化財産百選集
新江ノ島水族館

2014年5月31日撮影


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