相俣
あいまた

茶畑、石垣、ときどき茶部屋

旧清沢村の中心部、相俣には茶畑と茶農家が織りなす静岡の原風景が残されています。木造の家や小屋が散在する風景には心洗われます。

【1】お茶は日当たりがよく、水はけがよい土地を好むため、しばしば茶畑は急斜面につくられます。
【2】長さ15メートルにもなる長大な建物。手もみ製茶を行った茶部屋です。建築は明治後期(旧大棟藤吉家)。
【3】茶部屋の横に作業小屋が建ちます。摘んだ茶葉はこの小屋で蒸してから、茶部屋で手もみ工程に移り、乾燥させました。
【4】戦後、新築された茶工場です。機械化によって静岡各地で伝統的な茶部屋は姿を消しつつありますが、ここでは60年ほどの間に建てられた製茶関連施設がすべて保存されています。

相俣は清沢小学校のある下相俣と、そこから200メートルほど上流の上相俣の2地区からなります。両地区とも谷間の傾斜地に茶畑がつくられていて、その間に間に木造の茶部屋や作業小屋が点在しています。


上相俣の景観

上相俣の景観

相俣の名を一躍知らしめたのが上相俣の旧大棟藤吉家住宅。威厳を誇るかのような石垣が印象的で、手もみ製茶を行った木造の茶部屋が建てられています。
手もみ製茶の歴史的な解説は「伊久美二俣」の項目に書きましたので、本項では主に茶部屋について、資料をもとにまとめさせていただきます。

まず、同家の茶部屋ですが、建造は1902〜04(明治35〜37)年ごろといわれ、静岡県に現存する茶部屋としては古い部類です。しかも建設された当初の姿をとどめる例は少なく、その意味でも大変貴重です。


旧大棟藤吉家住宅の茶部屋

旧大棟藤吉家住宅の茶部屋

手もみ製茶では、はじめに摘んだ茶葉を蒸します。その後、茶部屋に並べられたホイロと呼ばれる台(40〜50度に温める)の上で、文字どおり手もみしました。こうすることで茶葉の細胞を壊し、色と香りを高めることができます。もんだ茶葉は茶部屋の片隅で乾燥させ、さらに香りを高めました。

ホイロは製茶時、高温になりますから、室内を換気させる必要があります。しかし茶葉は日光に当たると変色してしまうため、茶部屋の開口部は障子戸や無双窓とするのが一般的でした。大棟家の茶部屋には現在、ガラス窓が入っていますが、そこにも無双窓が入れられていた痕跡があり、裏手にはいまも無双窓が付けられているそうです。

昔ながらの手もみ製茶は、機械化の普及にともないほとんど行われなくなり、古い茶部屋も急速に数を減らしています。しかし相俣には茶部屋の象徴ともいえる大棟家をはじめ、いくつもの茶部屋建築が残されています。
主屋で古い建物は少ないという印象でしたが、石垣の茶畑に板張りの小屋が点在する集落は静岡の原風景といえるもので、いつまでも大切にしてほしいと思いました。

上相俣の石垣と茶部屋
   

上相俣の石垣と茶部屋

上相俣。おそらく茶工場だろう
   

下相俣の茶畑と茶農家

大棟家とともに相俣の旧家として知られる築地家の茶部屋(下相俣)


【住所】静岡県静岡市葵区相俣
【公開施設】なし
【参考資料】
「旧大棟藤吉家の茶部屋について 旧清沢村(静岡県)における製茶関連施設の調査2」高原達矢・後藤治ほか著、『日本建築学会大会学術講演梗概集』2006年9月所収

2014年6月1日撮影


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