種蔵
たねくら

なぜ倉は群れるのか

飛騨北部にある種蔵は3階建ての大型民家の集落。伝統建築の比率が高く(主屋は現存15棟のうち12棟が戦前のもの)、重伝建に匹敵する建築的価値をもつ集落です。これらの主屋とともに特徴的なのが、田んぼの中に設けられた、板倉の集まる区画です。

【1】主屋から離れた場所に倉が群れています。風通しがよく、水はけのいい土地に蔵を建てているわけですが、1カ所に数世帯の蔵を集めるのは、火災時に延焼するのを避けてのこと。こうした蔵を群倉(ぐんそう)といいます。
【2】群倉は棚田の中に建てられています。雪の間から石垣がのぞいているのがお分かりでしょうか。板倉は、第一義的には穀物の貯蔵用でした。田んぼに群れをなしているのも、作業効率を考えてのことです。
【3】主屋は多くが3階建て。同じ飛騨の白川郷を連想させる、非常に大型の民家です。

岐阜県の最北端、旧宮川村(現飛騨市)の山あいにある種蔵集落。棚田が広がり、その「雨上がりの石積み」が環境省のかおり風景100選に選ばれるなど、岐阜県内でもとくに見事な田園景観が広がる集落です。
種蔵の特徴が21棟もある蔵で、そのほとんどが主屋から離れた場所に建てられています。


自慢の棚田も石積みも雪の中

横から見ると3層構造であることがよく分かる
その理由は、火災時に財産を守ることと、農作業の効率をあげることの2点。構造的には、傾斜のある棚田に建てられているため、懸造り(かけつくり)としているのが特徴です。京都の清水寺と同じですね。
そのため横から見ると、懸造りである初層を加え、3層構造となっています。収納されたのは、初層(半地下)が農具、2層目(1階)が穀物、3層目(2階)が家財道具などとなっていました。
建材はクリが多く、1棟すべてがクリで建てられたものもあるそうです。柱と貫が密に組まれ、見るからにがっしりとしていますね。
柱が密に組まれた独特の外観

立派な3層構造の民家。真壁が美しい
板倉ばかりが注目を集める種倉ですが、主屋も見逃すことができません。現在、集落には15棟の主屋がありますが、そのうち12棟が戦前の建築。しかも3階建ての、いわゆる「多層民家」が5棟もあります。
同じ飛騨の白川郷にある3層民家は、屋根の傾斜が急な合掌造り。しかしここ種蔵の屋根はとても緩やかに傾斜しています。
種蔵の3層民家の成立には、明治以降盛んになった作馬(さくんま)が関係しています。作馬は、富山平野の農家に田仕事用の馬を貸すことをいい、見返りとして米を受け取る商売でした。種蔵において馬の飼育が重要になり、時同じくして養蚕も行われるようになると、蚕室や飼料置き場として屋根裏の拡張が進みました。
こうして、広々とした空間をもつ3層民家ができあがったのです。

こちらも3層構造。真壁は雪景色との相性がいい

集落全景
左写真は群倉のあるあたりから集落の東を望んだところ。
雪原に真壁の大型民家が点在し、山の斜面に板倉が見えます。水はけがよく、風通しのよい高台に、板倉を配したのです。
ところで、種蔵の板倉を撮影していると、ニホンカモシカに遭遇! けっこう近づいても逃げませんでした。
雪の中、エサを探し求めて降りてきたのでしょうかねぇ。
ちなみに特別天然記念物のため狩猟ができず、春先に杉の若芽を食べるため、地元では害獣と見なされると聞きました。


【住所】岐阜県飛騨市宮川町種蔵
【公開施設】なし
【参考資料】
『小屋と蔵』安藤邦廣+筑波大学安藤研究室、サイレントオフィス、2010年
「岐阜県飛騨市種蔵集落における3層民家の変容過程とその要因」青柳由佳、小林久高、濱 定史、豊川 尚、安藤邦廣著、『日本建築学会計画系論文集』76巻666号(2011年8月)所収

2014年2月9日撮影


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