忍草
しぼくさ

富士には茅葺きがよく似合う

忍草は忍野(おしの)八海のある地域で、国内外の観光客で連日にぎわっています。忍草には、富士山と茅葺き建築を1枚の写真に収めることのできるビューポイントがたくさんあります。

【1】忍草の家は茅葺きのかぶと造りで、庇を二段入れた二重かぶとが主流です。
【2】大棟(屋根のいちばん高いところ)の仕上げは家によってさまざま。この家は鉄板で葺かれているようです。ほかにX字形の木材の千木(ちぎ)を置いた家、編んだ竹を巻いた家、空気抜きの小窓(腰屋根)を乗せた家があります。
【3】懸魚(げぎょ)があるのが見えるでしょうか。忍草ではかつて多くの家に懸魚が付けられていたそうですが、今回の探訪ではこの1軒でしか確認できませんでした。

雄大な富士を間近に望めることから、忍野八海は昔もいまも変わらぬ人気の観光地です。近年はとくに中国からの観光客が多く、湧池や鏡池のある中心部はものすごい人だかり。かつて8つの池をめぐる巡礼が行われた霊場だったという雰囲気は、微塵も感じられません。
駐車場の隣にも茅葺き民家があった

妻側に屋根を掛けず、窓を開ける

この忍野八海を擁する忍草集落は茅葺き民家の宝庫でもあり、10棟ほどが現存しています。すべて妻側に明かり取りの窓を開けたかぶと造りで、これは山梨県に多い民家の形式です。

かぶと造りは屋根裏で養蚕を営むようになってから普及した形式。忍草は江戸時代、宿駅機能をそなえていましたが、交通網が発展した明治20〜30年代以降、新たな収入源を確保する必要性から普及したようです。
平側の屋根に換気用の窓を開けた家もある

旧渡邉家。資料館の敷地外からのぞき見る

忍草の代表的な古民家が、18世紀後半に建てられた旧渡邉家。現存する忍野村最古の民家とされ、屋根には空気抜きの小窓を乗せています。現在、榛(はん)の木林資料館として一般公開されていますが、訪れた日は残念ながら臨時休業でした。

旧渡邉家の南西100メートルほどのところにもう1軒、大きな古民家があります。こちらは庄屋を務めた家で、現在は民宿・鱒の家(ますのいえ)として使われています。公式ウェブサイトには築200年とあります。


鱒の家


右の茅葺きはトイレ

忍草ではこれらの古民家のほか、観光客向けにつくられた茅葺きの東屋やトイレ、土産物屋などが点在。とりわけ、中池(八海には数えられません)のほとりに建つ茶屋や売店、水車小屋は人気の撮影ポイントで、いつ訪れても多くの観光客でにぎわっています。


中池の周囲に茅葺きの売店や水車小屋が点在する

観光施設のかやぶき茶屋
山梨県は茅葺きのかぶと造りの密集地帯で、富士を背景にたたずむ姿を見ると「やっぱり富士には、茅葺きがよく似合う」と思います。しかし、ここまでテーマパーク然とする茅葺き景観を整備する必要があったのかは疑問です。
わたしは、観光ルートから外れた場所にひっそりと建ち、昔のままに生活を営まれている民家のほうが好みです。


【住所】山梨県南都留郡忍野村忍草
【公開施設】榛の木林資料館

2016年2月28日撮


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