小屋敷
こやしき

柿色に染まる晩秋

甲州市の旧松里町はコロ柿生産の中心地。晩秋になるとどの家でも柿を干し始めます。町内の小屋敷地区は、コロ柿とともに伝統的な民家も見応えがありました。

【1】まるで家に柿がなっているようです。「コロ柿のすだれ」といわれる、見事なオレンジ色の滝です。
【2】柿を掛ける横材には、伝統的に竹が使われました。最近は鉄パイプのほうが多く使われていますが、この農園では竹が健在でした。
【3】生産量をあげるため、庭にコロ柿専用の棚を設ける家も増えています。

甲府盆地では毎年11月、収穫した柿の皮を剥き、天日干しにして干し柿をつくる習慣があります。起源は明確ではありませんが、一説では武田信玄の時代に、兵糧食として生産が奨励されたことによるとされています。
柿は2、3週間吊るしたのち平置きにし、天日干しにする

柿を干す棚の背後にやぐら造りの民家が建つ

同様の習慣は日本各地に伝わっていて、福島県伊達市の五十沢(いさざわ)、岐阜県美濃加茂市の蜂屋、和歌山県かつらぎ町の広口などはよく知られています。山梨での生産は、このうち蜂屋の柿を移植したことに始まるとされます。

近年は農家の建て替えが進んだり、柿干し専用の小屋も増えたため、昔のままに主屋に柿を吊るす家は少なくなりました。そんな中、小屋敷地区には古い農家建築が多く残され、昔ながらの風景を見ることができました。
こうした柿干し専用の小屋が増えている

大きな土蔵造りの建物

やぐら造りの民家

岩波農園の柿すだれ

小屋敷の中心的存在が、観光農園の岩波農園。木造2階建ての主屋の前面に柿を吊るすさまは圧巻です。柿は一列に吊るされているように見えますが、横から見ると何列にもなっていることがわかります(左写真)。それぞれの柿は密着させず、風通しを確保しています。


岩波農園主屋。妻面にも柿がぎっしり

青空に柿が映える
また、地区内には山梨県に特有のやぐら造り(詳細は上条の項を参照)をした養蚕農家が見られます。右の家はその1軒ですが、玄関が特徴的。影になって見えにくいのですが、破風板はカーブを描き、その下に家紋の入った大きな蟇股(かえるまた)まで入れられています。門も長屋門でしたし、名主を務めた家なのでしょうか。
T家住宅。大きな玄関をもつ

T家住宅(右上とは別)。この家にも玄関があった

左の家の全景。庭でコロ柿を干していた

登録有形文化財、旧武藤酒造

左写真は安政4(1857)年に建てられた旧武藤酒造。酒造家ですが、主屋は空気抜きの腰屋根を乗せた養蚕農家の形式です。小屋敷は連続性のある町並みは見られないものの、こうした古民家が広範囲に点在し、見どころに尽きませんでした。


【住所】山梨県甲州市塩山小屋敷
【公開施設】岩波農園

2013年12月1日撮


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