上条
かみじょう

浮いた屋根の秘密

日本の農家は養蚕によってさまざまに変化してきました。そのひとつの究極形が、屋根を浮かせたやぐら造り。分布は甲府盆地に限られます。

【1】屋根の中央が浮かび上がっています。「突き上げ2階」といい、こうした構造をもつ家を「やぐら造り」といいます。採光・通風性能を高める目的でつくられました。
【2】屋根の真ん中に窓を開け、庇を乗せた「突き上げ屋根」です。このお宅は「突き上げ2階」と「突き上げ屋根」をそなえています。こうした形式を「2段煙出し造り」といいます。
【3】妻面には地面から棟まで通し柱が入れられています。これもやぐら造りの特徴です。

養蚕農家の家づくりのテーマは、蚕を飼育する2階の採光・通風をどう確保するか。甲州の場合、屋根を切妻とし、妻面に窓を設ける「かぶと造り」を発展させて解決しましたが、それだけでは満足できなかったのか、一部の家は屋根の真ん中を宙に浮かせるという離れ業をやってのけました。
これが甲州名物、やぐら造り

やぐら造りが点在。この写真には3棟写っている

メイン写真で説明した通り、こうした構造は「突き上げ2階」「やぐら造り」と呼ばれます。その名の通り、2階が突き上げられた構造です。県外ではまずお目にかかれませんが、甲府盆地では至るところに残されていて、中でも際立った密集率を誇る上条集落には12棟が現存しています。


2段煙出し造りの家(中央)とやぐら造りの家(左奥)

突き上げる高さは家によって異なる
やぐら造りはその奇怪な2階の造作にばかり目を向けがちですが、構造的には地面から大棟(屋根の一番高いところ)まで1本の通し柱で支えていることが特徴です。この柱は「はっぽううだつ」といい、妻壁の真ん中を縦に貫いています。
妻面に1本見える柱が「はっぽううだつ」

甲州民家情報館

屋根は、かつてはどれも茅葺きでしたが、いまではほとんどトタンで補修されています。茅を見せる唯一の家が、NPO山梨家並保存会が管理する甲州民家情報館。これもトタンで覆われていたものを、茅に葺き直したのだそうです。

甲州民家情報館はイベントスペースとして活用されていて、宿泊も可能。また、上条では集落をめぐる見学会も定期的に行われています。やぐら造りは特異な形態でありながら、白川郷の合掌造りなどと比べ、これまで日の目をみることがありませんでした。こうした活動を機に、広く知られるといいなと思いました。
甲州民家情報館の2階

突き上げ部分は一段と明るい

突き上げ部分から集落を見わたす。下はぶどう畑


【住所】山梨県甲州市塩山下小田原(字上条)
【公開施設】甲州民家情報館
【参考資料】
『滅びゆく民家 間取り・構造・内部』川島宙次著、主婦と生活社、1973年

2013年12月1日撮


戻る