江曽原
えぞはら

関東風の養蚕集落

山梨県には養蚕集落がたくさんあります。ここ江曽原もそのひとつ。山梨県に固有のやぐら造りも見られますが、秩父や群馬に多い瓦葺きの2階家が多数を占めています。

【1】真壁造り、2階建ての農家が見られます。これだけ密集した集落景観は見応えがあります。
【2】屋根に乗る小窓(腰屋根)は換気用。屋根裏を蚕室とするため設けられました。
【3】妻側から見ると、多くの家が三層構造をしているのが分かります。おそらく生糸の需要が増える過程で、2階の屋根裏を蚕室に利用していったのでしょう。

甲府盆地の周縁山地は養蚕集落の宝庫。2015年には甲州市の上条が国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定され、笛吹市の芦川地区では重伝建選定に向けた運動が継続中です。
歴史的景観を残す集落はほかにもあり、 山梨市南部の江曽原でも多くの古民家を見ることができました。

江曽原は切妻民家の多い集落

甲府盆地のみで見られるやぐら造り

江曽原の養蚕農家には大きく2つの系統があります。ひとつは茅葺き・切妻造りで、屋根の中央部分を切り上げた「やぐら造り」と呼ばれるもの。甲府盆地に固有の民家形態で、屋根裏を蚕室とするべく、光と風を確保するために考案された民家です。


長屋門のあるやぐら造りの家


茅屋根を見せた家はなかった

もうひとつが瓦葺き・切妻造りの民家。一見すると2階建てですが、横から見ると窓が三段になっています。おそらく養蚕の普及・発展期に、従来の家をやぐら造りに改築する者と、2階を増築して屋根傾斜を緩やかにし、瓦に葺き替える者とがあったのでしょう。
平側から見ると2階建て、妻側から見ると3階建て

やぐら造りと瓦葺きの農家が共存する

瓦葺きの養蚕農家は埼玉県の秩父地方や群馬県南西部に多く見られます。江曽原を含む笛吹川上流域には秩父往還が通っていますから、この道をたどって北部の民家が広まったのかもしれませんね。

それにしても江曽原集落には多数の養蚕農家が残されていて、驚嘆に値します。2015年現在、まだ学術調査は行われていないようですが、この集落のもつ建築的価値の高さは一見するだけで明らか。何らかの調査や保存対策が取られることを望みます。


長屋門のある家が多かった

この家も長屋門を構えている

ところで、冒頭でも触れましたが、甲府盆地周辺(とくに東側)の山村集落を訪ねて思うことは、どの集落も古民家の質・量がすぐれていることです。これだけ歴史的集落が多く見られる地域は、全国でもほとんどないと思います。まだ見ぬ集落を求め、何度でも訪問したくなる地域です。


【住所】山梨県山梨市江曽原
【公開施設】なし
【参考資料】
伝匠舎->甲州に伝わる切妻民家のお話

2016年2月28日撮


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