新倉
あらくら

山肌に光る名建築

新倉は早川町のほぼ中央、早川左岸の傾斜地にあります。集落は河岸の平地から山裾にかけて広がっています。

【1】谷の下を早川が流れます。集落は傾斜地にあるので、下の家の屋根が視線の高さに見えます。
【2】2階に手すりをまわした、旅館や料亭のような建物が目立ちます。
【3】手すりのほかにも、各家では凝った意匠が見られました。この家は建具の造作がいいですね。地形に合わせ、平面を変形させている点も珍しいと思います。

2015年国勢調査によれば、早川町の人口は1,070人。東京電力・福島第一原子力発電所の事故(2011年)で強制避難中の自治体を除き、全国で最も人口の少ない町です。新倉はそんな早川町の中心集落で、1984(昭和59)年刊の『角川日本地名大辞典』には人口最多を誇ると紹介されていますが、最新の統計によれば町内で3番目、ちょうど100人が生活を営んでいます(人口統計は町丁別のもので、新倉と茂倉〈もぐら〉の両集落が含まれます)。
石垣を積んだ集落景観

山すそから川岸にかけて家が建て込む

集落は早川左岸の県道沿いから山の斜面にかけて広がっています。地名大辞典によれば、人家ははじめ山すそに集中し、大正期に始まった発電所建設工事で早川沿いにも集落が発達。しだいに街村型集落が形成されたとのことです。

この電源開発による往来人口の増加によるものなのか、それとも枝村・茂倉での鉱山開発によるものなのでしょうか、新倉には旅館や料亭を思わせる建築が多く目につきました。2階の手すりが地下鉄丸ノ内線の「サインウェーブ」のような波形模様をしたものもあります。一時期、この集落で流行したものなのかもしれません。
この家も波形の手すりをもつ。雨戸袋も凝っている

波形模様の手すりを入れた家。玄関横の窓は梅をかたどったものか?

唐破風の玄関屋根のある家


直線的な手すりが美しい


傾斜地の家並み。2階がせり出している
山すそ側の集落では石垣を築いた上に主屋や蔵を並べています。屋内を少しでも広く使うためでしょうか、外階段をしつらえた家も見られました。同様の造作は茂倉でも確認できます。2階をせり出しているのも、空間確保のためでしょう。

外階段のある蔵

谷底を見下ろす場所に土蔵が建っていた


【住所】山梨県南巨摩郡早川町新倉
【公開施設】なし
【参考資料】
『角川日本地名大辞典(19)山梨県』角川書店、1984年

2016年9月3日撮


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