卯辰山山麓
うたつやまさんろく

仮設的な寺院群

浅野川の北岸にある卯辰山の山麓に、40以上の寺が集まる寺町が形成されています。切妻・平入りの、長屋のような寺院建築が特徴です。

【1】切妻造り、平入りの簡素な寺院が多いのが卯辰山山麓の特徴。火災が頻発し、再建をくり返すうちに仮設的な寺院が建てられるようになりました。
【2】このお寺(長久寺)には入口が2つあります。左が本堂、右が妙見堂で、ひとつ屋根の下に2つのお堂が収められています。同様のデザインの寺院は卯辰山山麓でほかにも見られます。
【3】金沢では妻入りの寺院は少数派。しかし化粧梁を見せ付ける妻入り寺院は、平入りよりも存在感があります(妙應寺)。

金沢では城下町整備の一環として元和2(1616)年、3代藩主・前田利常の命で複数の寺町が形成されました。卯辰山山麓もそのひとつで、40〜50年をかけて現存するほとんどの寺院が当地に移転してきました。


妙国寺アプローチ


全性寺の楼門前

日本の寺町は、一本道の両側に整然と寺院を配したものが多く、同じ金沢の寺町台や京都の寺院群などもそうした配置を見せます。ところが卯辰山山麓では、地形に合わせて屈曲する道路に沿って、不規則に分散配置されているのが特徴です。

寺院建築にも特徴があります。金沢の他地域に比べ切妻造り、平入りが圧倒的に多く、全体の7割を占めています。理由のひとつとしてあげられているのが雪の処理。多くの寺院は本堂の裏手に墓所がありますが、切妻・平入りにしておけば屋根雪が本堂の前後に落ち、墓所への通路を塞ぐことはありません。


妙泰寺。切妻・平入りの簡素なつくり


常福寺(中央)と長久寺の背面(左)

また、金沢の中でも卯辰山山麓に切妻・平入りが突出して多いのは、当地が火災の頻発地域だったためと考えられています。卯辰山山麓は享保21(1736)年と宝暦9(1759)年の火災で全域が被災し、その後も火災が頻発しました。何度も再建するうちに、仮設的な寺院がつくられるようになったようです。
それぞれの寺院では正面に向拝を設け、参拝路が雪に埋もれないように配慮しています。寺院の中には右の来教寺のように2つの向拝を並べたものもありますが、これは1棟の中に2つのお堂を祀っているため。卯辰山山麓に特徴的なデザインです。
来教寺の場合、左が金比羅堂、右が本堂で、神仏習合時代の名残りをとどめています。


来教寺。同型同大のお堂を並べるが向拝のかたちが違う

 


高木糀商店

卯辰山山麓には伝統的な町家も多く残され、寺院群と共存して豊かな町並み景観を見せてくれます。
中でも高木糀(こうじ)商店の店舗は重厚なたたずまい。幕末の建築で、表に蔀戸(しとみど)を残すなど、改変が少ない貴重な文化財です。

高木糀商店の向かいにも寺院がある


寺の塀の先に商家が連なる


寺町に隣接する古い町並み


【住所】石川県金沢市東山1〜2丁目、山の上町
【地図】トップ写真の撮影地点(妙應寺・長久寺)
【公開施設】多くの寺院が境内を一般開放している
【参考資料】
『金沢市卯辰山山麓寺院群区域伝統的建造物群保存対策調査報告書』金沢市、2006年

2015年2月16日撮影


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