上大沢
かみおおざわ

北風に抗して

間垣と呼ばれるニガタケの垣根は、輪島市の大沢と上大沢の2集落で見られます。上大沢ではいまも間垣を維持するためのコミュニティが残されています。

【1】間垣の高さは5メートル。2階建ての家がすっぽり隠れる高さです。
【2】横材にはクリやアスナロを使うのが伝統的。今日の上大沢では、ニガタケを数本ずつ縛って横材とする家もあります。
【3】敷地への入口はあくまで小さく、扉は板でつくられています。

間垣の集落はかつては能登半島の日本海岸、俗に外浦と呼ばれる地域で広く見ることができました。『角川日本地名大辞典(17)石川県』(1981年)のカラー口絵でも、間垣の中に茅葺き民家が建ち並ぶ真浦(珠洲市)が紹介されています。しかしメンテナンスの苦労が絶えない間垣は近年急速に失われ、いまや輪島市中西部の隣り合う2集落、大沢と上大沢でしか見られなくなりました。

大沢と上大沢の間垣は、基本的には同じものですが、景観維持という点では大きな差があります。大沢では空き家が増え、伝統的な間垣は全体の37%(総延長809.6m)。これに対し上大沢には空き家がなく、総延長517.4mの間垣のうち80%が伝統的な間垣です。(いずれも2009年調査時)

また、大沢に比べ護岸整備が進んでいない上大沢では、外海から強風が吹く日が多く、間垣は必要不可欠な存在として継承されています。神社や集会所など、集落の共用空間にも間垣は設けられています。間垣は毎年1回、ニガタケの差し替えを行わなくてはなりません。共用空間の間垣は集落総出で管理しますが、こうした習慣は大沢では失われ、いまでは上大沢でのみ継承されています。


日吉神社の間垣


近づいてみると、間垣が隙間だらけであることがよくわかる

間垣は直径数センチのニガタケという細い竹を並べてつくります。その際、堅固な竹垣とするのではなく、あえて隙間を設けることで風の逃げ道をつくり、竹垣が倒れるのを防ぎます。
また、古いニガタケは夏にかけて朽ちてゆき、猛暑のころには適度に間隔があいて風通しがよくなります。そして11月になると隙間に新たなニガタケを補充し、アイ(北からの季節風)にそなえて冬を乗り越えるのです。

集落の奥のほうでは板材による簡易的な間垣も見られた


見れば見るほど独特な集落景観である


【住所】石川県輪島市上大沢町
【地図】トップ写真の撮影地点
【公開施設】なし
【参考資料】
「大沢・上大沢の間垣の現状」亀井望著、『金沢大学文化人類学研究室調査実習報告書』22号所収(PDF
「石川県輪島市における文化的景観保全と里づくりの取り組み」土井祥子著、2014年(PDF
「能登の里山里海景観『輪島西保地区の間垣』保全継承のための実証的研究」松下重雄著(PDF

2014年5月4日撮影


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