寺家
じ け

二段構えの舟屋

能登半島の最奥、珠洲(すず)の地名発祥の地とされる須須神社のある寺家の砂浜に、20以上の舟屋がずらりと並ぶ光景が残っています。妻入りの家が密集する漁村景観も見応えがありました。

【1】寺家の舟屋は二段構成。下にあるのがその名も「下舟小屋」で、近海漁の盛んな春から秋にかけて使います。
【2】こちらは「高舟小屋」。漁に出られない冬の間、船を格納する小屋です。下舟小屋とは違って壁を張り、がっしりとしています。
【3】船の出し入れには板のレール(差し棒)とコロを使っています。

2011年、日本で初めて世界農業遺産*に認定された「能登の里山・里海」。その豊かな「里海」を象徴する光景が、半島の突端の寺家集落で見られます。
砂浜にずらりと並ぶ、20棟もの舟小屋。切り出したままの栗の柱を砂浜に突き立て、切妻屋根を掛けただけの素朴なつくり。舟小屋の宝庫といえる能登半島の中でも、この眺めは壮観です。

*国際連合食糧農業機関が認定。環境を生かした伝統農法、生物と共存する農村地域などの保全を目的とする。日本からは2011年に「能登の里山・里海」「トキと共生する佐渡の里山」が第一号として認定された。


栗の柱を直接、砂浜に立てる

寺家の舟小屋の特徴は、上下2段構えになっていること。下の小屋は春から夏の漁期に使い、時化て漁に出られない冬には、一段上の小屋に格納しました。上の小屋に壁がまわされているのは、厳しい冬の間に船が傷まないようにするためでしょう。
これらの舟小屋や漁船はいまなお現役。『舟小屋 風土とかたち』によると、ワカメやサザエなど沿岸の素潜り漁に利用されるようで、ズワイガニやハタハタを獲る商業漁業は、近代的な設備の整った寺家漁港を拠点に行われるとのことです。

この舟小屋で古風なのは掘っ立て柱構造だけではありません。なんと船の出し入れに、コロを使っているのです。


昔ながらに差し棒とコロを使って船を出し入れする

海岸線に沿って湾曲する道沿いに、能登特有の黒瓦の家並みがある

寺家の舟小屋群は集落の最も北に位置しています。集落自体は南北1kmほどもあり、なかなかの規模でした。海岸線に沿って屈曲する細路地の両側には、板張りの古い家や納屋が並んでいました。


【住所】石川県珠洲市三崎町寺家
【地図】トップ写真の撮影地点
【公開施設】なし
【参考資料】
『舟小屋 風土とかたち』神崎宣武・中村茂樹・畔柳昭雄・渡邉裕之著、INAX BOOKLET、2007年

2014年5月4日撮影


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