菅沼
すがぬま

箱庭のような集落

庄川流域は、日本でもここでしか見られない合掌造り民家のふるさと。川の蛇行部にある菅沼は、周囲の景観と調和した美しさで知られます。

【1】急傾斜の大屋根をもつ、これが合掌造りの民家です。
【2】妻面に下屋を出すのが富山県の五箇山地方に特有の形式。同じ合掌造りの里である岐阜県の白川郷では見られません。
【3】蔵も合掌造り。主屋から離れた場所に建てるのが一般的です。
【4】居住地を囲むように水田が広がります。かつては桑畑でしたが、1945(昭和20)年の治水事業により水田となりました。
【5】集落の美しさを引き立てるのが背後の森。雪崩から集落を守る雪持林(ゆきもちりん)として、古くから伐採が禁じられてきました。

五箇山は富山県の旧平村、旧上平村、旧利賀(とが)村の全域を指す地名で、「五つの山(谷)があったことから」ともいわれますが、詳しい由来は分かっていません。
このうちの旧上平村にある菅沼集落は、面積5ヘクタールほどの舌状地に展開し、江戸時代のまま時を止めているかのように、古い形式の民家や蔵がたくさん残されています。


4層の合掌造り、A家住宅

菅沼の民家は合掌造りと呼ばれる形式です。特徴は、50〜60度ほどの急傾斜の茅葺き屋根であること。また、その急傾斜ゆえ屋根裏空間を多く取ることができ、場合によっては4層にもなります。

五箇山の合掌造りの外見上の特徴としては、妻面に庇を降ろし、そこを下屋としていることがあげられます。これは岐阜県・白川郷の合掌造りにはない構造ですが、なぜこのような姿になったのかは分かりませんでした。


下屋をもつ合掌造り、お土産かっぱ。まるで入母屋屋根のようだ

村外れに建つ蔵

菅沼では集落の南東部に住居が密集し、北西部は水田になっています。また、住居と水田の間には蔵が多く建てられています。こうした明確な土地利用がなされているのは、集落の規模が小さく、より効率的に土地を使うための方策だったと考えられています。
菅沼を含む五箇山の各集落は、水田耕作地が少ないため、和紙づくりや硝煙づくり、養蚕などさまざまな産業が同時並行で行われていました。現在のように水田が広がる景観が生まれたのは意外と新しく、菅沼に関していえば1945(昭和20)年に対岸から水を引き、旧来の桑畑を水田に改変したのが始まりです。

菅沼は1995年に世界遺産に登録されると観光客が急増。2007年には集落の南西に、展望台をそなえた駐車場「菅沼展望広場」が完成しました。展望広場にはエレベーターも完備され、坂道を歩かずに集落までアクセスできます。


集落内の神明宮

冬の菅沼

小さな集落を大勢の観光客が闊歩する様子を見ると「何か違う」と思ってしまいますが、それは部外者のエゴというものでしょう。駐車料金による収入は集落景観の維持――とりわけメンテナンスに莫大な費用がかかる茅屋根の維持――に、なくてはならないものなのですから。


【住所】富山県南砺市菅沼
【地図】菅沼合掌造り集落
【公開施設】南砺市五箇山民俗館、南砺市塩硝の館

2003年3月5日、14年5月3日撮影


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