鵠沼
くげぬま

別荘地の面影かすかに

東京の避寒地として、また関東大震災後の新興住宅地として発展した湘南海岸。その代名詞ともいえる鵠沼に、別荘地時代の面影がかすかに残っています。

【1】鵠沼別荘地のシンボル、林家住宅。別荘地時代の貴重な遺産です。
【2】現存する建物は少なくなりましたが、生垣や石垣の連続性は見事で、本鵠沼駅の両側にこうした町並みが広がっています。
【3】海に近い土地柄か、庭木として松を植えている家が目立ちました。

鵠沼は藤沢駅から江ノ島海岸にかけての南北およそ3キロにわたる地域で、明治時代に東京人の別荘地として開発されました。鉄道網の発展とともに、アクセス良好な温暖の地であることが注目され、主に冬に逗留する避寒地として、また、結核などの療養地として住宅が建設されていきました。


松の植栽が美しい町並み(本鵠沼二丁目)

庭木が茂っているため主屋が見える家は少ない(鵠沼桜が岡1丁目)

当初開発された鵠沼別荘地は、現在の江ノ電鵠沼駅から小田急片瀬江ノ島駅にかけての一帯ですが、そのあたりは後代に再開発されたため、古い建物はそれほど残されていません。むしろ藤沢駅から小田急本鵠沼駅にかけての一帯に、かつての面影が残っています。

このあたりでは海岸性の土地を固めるためなのか、丸石を固めて基礎とする家が見られました。同様に門柱を丸石積みとしている家も目につきます。当時の流行だったのでしょうね。


丸石積みの基壇と門柱をもつ家(鵠沼橘1丁目)

マンサード屋根の玄関をもつ家(鵠沼桜が岡1丁目)

こうした石垣や重厚な門柱、それに生垣、鬱蒼と茂る庭木などが、本鵠沼駅を中心に半径1キロほどの範囲に点在しています。残念ながら建物の建て替えは進んでいるようですが、土地割は昔のまま。丹念に探すと戦前の瀟洒な別荘・住宅建築も見つけることができました。

林家住宅は1937(昭和12)年、思想家・哲学者の林達夫自邸として建設されました。大きな三角形の切妻屋根が印象的で、妻壁の木材の飾りや屋根上の明かり取りの出窓など、細部にまで手が込んでいます。
林家住宅。緑濃い庭も美しい(鵠沼桜が岡2丁目)

旧後藤医院鵠沼分院。1933(昭和8)年築(鵠沼橘1丁目)

大きな三角屋根の家。戦前の住宅だろうか(本鵠沼2丁目)


鵠沼の旧家、高松本家。主屋は現代風に改築されている(本鵠沼2丁目)


【住所】神奈川県藤沢市本鵠沼2〜4丁目、鵠沼橘1・2丁目、鵠沼桜が岡1〜4丁目、鵠沼海岸7丁目ほか
【公開施設】なし

2014年10月14日撮


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