長谷・由比ガ浜
はせ・ゆいがはま

家は活かされ、匿されて

鎌倉でひときわ風光明媚なのが長谷から由比ガ浜にかけての一帯。ここには数々の別荘・住宅建築が残されています。あるものは現役の住宅として生き続け、またあるものは店舗や文化施設となって第二の人生を歩んでいます。

【1】長谷・由比ガ浜には古民家をリノベーションした物件がたくさん。この棟門は築80年の和館を改装した蕎麦屋の松原庵です。
【2】向かいのこちらには戦前と思しき洋館があります。今も居住されていて、庭木にはばまれ全貌をうかがうことはできません。
【3】石垣はやっぱり鎌倉石です。

1889(明治22)年、横須賀線の延伸により鎌倉の利便性が高まると、文化人や実業家が居を構えるようになりました。1923(大正12)年の関東大震災後には移住者が増え、とりわけ作家が多く暮らしたことから「鎌倉文士」という言葉が生まれたほどです。
彼らの足跡をたどる鎌倉文学館は、長谷を代表する観光地。この瀟洒な建物は1936(昭和11)年に建てられた旧前田公爵家別邸を転用したものです。


旧前田公爵家別邸(鎌倉文学館)(長谷1丁目)

旧諸戸邸。1908(明治41)年。一時、鎌倉市長谷子ども会館として利用(長谷1丁目)

長谷・由比ガ浜界わいには文学館同様、店舗や文化施設として転用され、第二の人生を歩みつつある邸宅建築が見られます。
割烹旅館の鎌倉かいひん荘、蕎麦店の松原庵などがその代表。古い邸宅は土地が広く、相続や売却が困難なため解体されるケースが少なくないのですが、鎌倉では昔の建物を長く使おうという意識が高いようですね。


鎌倉かいひん荘。1924(大正13)年(由比ガ浜4丁目)

 

 

一方、いまなお住居であり続ける邸宅も数多く現存します。こうした家は鬱蒼と茂る庭木にさえぎられ、屋根や窓の一部しか臨めないことも多いのですが、店舗などに転用される邸宅とともに、人が住まい続ける邸宅も多い点が鎌倉の魅力だと思います。


篠田邸(旧村田邸)。1930(昭和5)年(由比ガ浜2丁目)

T邸。庭木の松が湘南らしさを演出する(由比ガ浜4丁目)

空き家だろうか、表札がはがされていた家(由比ガ浜4丁目)
   

長谷の商家群(長谷2丁目)

また、長谷寺や鎌倉大仏の門前町として栄えた長谷には、出桁(だしげた)造りの商家や旅館建築が残り、鎌倉では数少ない連続性のある古い町並みを見せています。


和風の邸宅も見られる(長谷3丁目)

旅館、対僊閣(たいせんかく)。1927(昭和2年)(長谷3丁目)


【住所】神奈川県鎌倉市長谷1〜3丁目、由比ガ浜2〜4丁目
【公開施設】旧前田公爵家別邸(鎌倉文学館)

2014年10月19日撮


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