数馬
かずま

山梨生まれの「二重かぶと」

数馬は檜原村最奥の集落。温泉や「都民の森」があり、旅館や民宿の連なる行楽地となっています。ここでは「二重かぶと」と呼ばれる屋根形式の農家が見られます。

【1】錦秋の檜原村、数馬にたたずむ多層民家。ここは3階です。
【2】入母屋屋根の途中をかぶと仕上げにしたような。あるいは、妻壁に2段の庇を付けたような。これが「二重かぶと」です。
【3】パッと見、茅葺きかと思いきや、なんと屋根は皮葺きでした。ちなみに杉皮か檜皮(ひわだ)かは不明です。

檜原村は養蚕に適した「かぶと造り」と呼ばれる民家の宝庫。その特徴は、入母屋ないし寄棟の屋根の両端を切り落としたような外観にあります。切り落とされた屋根形がかぶとを思わせることからこの名が付けられましたが、数馬はかぶとを二段重ねにした「二重かぶと造り」の家が見られます。


旅館として営業中の二重かぶとの家。築200年という

一重かぶと造りの民家。平面の屋根も折り上げて採光・通風性を高めている

かぶと造りは山梨で発祥後、関東地方から福島にかけて普及し、いまも残存例は多数あります。しかし二重かぶとは発祥地である山梨県の富士川流域のほかは、東京都の秋川上流域など限られた地域でしか見られません。

屋根を切り落としてあらわになった壁には窓を明け、蚕室とした2階や3階の通風性と採光性を高めています。二重かぶとは、もともと3層構造の農家につくられたと思いますが、そもそも江戸時代にあって3層構造をもつ家が少なかったことが、二重かぶとの分布の狭さにも関係しているのではないでしょうか。


この家は入母屋造だが、1階に庇があるので二重かぶと造りに見える

中村家住宅。屋根が二重かぶと造りになっている

数馬集落でも数のうえでは入母屋造りやかぶと造りのほうが多く、二重かぶとは数棟しかありません。
その1棟が国の登録有形文化財の中村家住宅です。建設は江戸時代後期。中村家は代々、九頭竜(くずりゅう)神社の神主を務める家柄で、内部には神殿がしつらえられているそうです。また、正面には切妻屋根の玄関が突き出ていますが、同家ではこれを「社務所」と称しています。


中村家住宅には「社務所」と称する玄関がある


数馬集落の景観。山ふところに民家が連なる


【住所】東京都西多摩郡檜原村数馬
【公開施設】なし
【参考資料】
『滅びゆく民家 屋根・外観』川島宙次著、主婦と生活社、1973年

2013年11月16日撮


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