石間
いさま

上を目指した集落

奥秩父には山の急斜面にへばり付くような集落が見られます。谷あいの低地よりも、日当たりのよい尾根を目指した結果だといわれています。

【1】石間集落は高低差100メートル以上の斜面に展開します。家の土台には数メートルもの石垣を築きました。
【2】農家では養蚕を営みました。2階には秩父や群馬の農家で見られるベランダ状の出梁(だしばり)がまわされています。
【3】狭い土地に主屋と付属屋が一列に並べられています。

「奥秩父を見ずして関東を語るなかれ」と言いたくなるほど、関東平野の西に陣取る秩父の山あいには独特の風景が広がっています。山肌に展開する集落はその最たるもので、インターネット上では「日本のマチュピチュ」というキーワードも多く目にします。


行く手にそびえる山肌に家が連なる

集落の石垣(半納)

石間は秩父地方の北西部にあり、石間川を挟んで南西に沢戸(さわど)、北東に半納(はんのう)の2集落があります。ここでは日当たりがよく、気温の上がる高台に集落が築かれていますが、平坦地が一切ない地形であるため、家も耕作地も石垣で整地した上につくられています。

必然的に各家の土地は等高線に沿って細長くなるため、主屋や付属屋は一列に並べられています。主屋は総2階建てで、2階部分には出梁と呼ばれる回廊状の造作をこしらえます。これは秩父や群馬県で一般的に見られる養蚕農家の造作。廊下を外にせり出すことで、2階の蚕室を少しでも広く使うための工夫です。


石間の集落景観。建物が列状に並ぶ(沢戸)


石間の民家。妻壁に見事な梁組みをもつものが多い(半納)


わずかな平坦地に畑をつくる(沢戸)

城塞のように重層的な集落だ(沢戸)

なお、2002年以降NHKが継続的に取材・放送し、奥秩父の特異な集落環境を世に知らしめた「ムツばあさんの花物語」の集落は太田部といい、石間からさらに山中を分け入った場所にあります。
今回は時間の関係で石間で引き返しましたが、いずれ機会をつくって太田部から群馬へ抜けてみたいと思います。


集落全景(沢戸)


集落の古民家(半納)


【住所】埼玉県秩父市吉田町石間
【公開施設】なし
【参考資料】
『写真でみる民家大事典』日本民俗建築学会編、柏書房、2005年

2010年4月24日撮


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