深谷
ふかや

中山道と赤レンガ

上質な土が採れる深谷には明治時代、レンガ工場が開設されました。以来、市内には赤レンガ造りの建築が続々と登場し、中山道の商家町も装いを新たにしていきました。

【1】旧中山道。深谷は江戸から数えて9番目、道中では最大の宿場町でした。
【2】現在、街道沿いに旅籠建築はほとんど見られず、大正〜昭和戦前の商家建築が多く残っています。
【3】深谷では1887(明治20)年、日本初の機械式レンガ工場が創業しました。この関係で市内にレンガ建築が増加。いまも中山道の商家町を中心に、歴史的なレンガ建築が広範囲に残っています。

深谷は中山道最大の宿場町でしたが、現在の町並みで特徴的なのが赤レンガです。明治の殖産興業時代、日本政府は東京近郊にレンガ工場をつくる計画を立てましたが、その建設地となったのが深谷でした。古くから瓦の生産が盛んで、良質な粘度を産する土地だったからです。


深谷の旧中山道沿いの町並み

滝沢酒蔵煙突。建設年不明

このとき創業した日本煉瓦製造株式会社は日本初の機械式レンガ工場で、これ以降、良質なレンガを生産。東京駅をはじめ、日本を代表するレンガ建築の建材として使われました。
地元・深谷でもレンガ建築が次々に生まれ、とりわけ耐久性・耐火性の高さから倉庫や工場の建材として重宝されました。そのひとつが滝沢酒蔵の麹室(こうじむろ)。室内の調湿用に、「空気を通しやすい」というレンガの特性が生かされた建築です。


滝沢酒蔵麹室は昭和初期の建設

滝沢酒蔵の見世蔵は中山道に面した立派な蔵造り。隣には妻入りの袖蔵も並べています。また、1軒東の坂本家住宅は深谷に残る最大級の町家建築で、やはり見世蔵と袖蔵を街道に面して配置しています。この一画は深谷の中山道で最も風情のある町並みとなっています。


坂本家住宅(手前)と滝沢酒蔵が並ぶ

塚本燃料商会店舗

塚本燃料商会店舗は、中山道に面する出桁(だしげた)造りの商家ですが、両側に設けられた防火用のレンガの袖壁が独特です。大正初期の建物で、中山道とレンガの町、深谷を象徴する建築といえます。

深谷では塚本燃料のほかにも、小規模ながらレンガの袖壁をもつ町家が散見されます。常盤園茶舗倉庫のように、土蔵の外壁にレンガを張って耐火性を高めた例もあります。


明治末から大正初期にかけてレンガが張られた常盤園茶舗倉庫


レンガ造りの袖壁をもつ商家


この住宅は塀がレンガ造り

深谷のレンガ建築群は広範囲に点在し、「町並み」とは違うかもしれませんが、これほど歴史的なレンガ建築――それも民間建築――が密集する町は全国でもほとんど例がないでしょう。いつまでも深谷の宝として受け継いでもらいたいものです。


1912(大正元)年の倉庫と1927(昭和2)年の洋館からなる小林商店


1933(昭和8)年の旧柳瀬金物店倉庫。1階部分がレンガ造り


旧七ツ梅酒造のレンガ塀。一部の蔵は映画館として再活用中


【住所】埼玉県深谷市田所町、深谷町、仲町、西島町1〜3丁目
【公開施設】なし
【参考資料】
パンフレット「深谷の煉瓦物語」深谷市教育委員会、2004年(第2次改訂版)

2014年4月2日撮


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