徳次郎町西根
とくじらまちにしね

農村の石化粧

宇都宮市には大谷石を使った石蔵が多く見られます。徳次郎町西根は残存率が高いことで有名で、公開施設のない農村でありながら、ガイドブックで紹介されるほどです。

【1】農村の西根には入母屋造りの大型農家も見られますが、集落全体が地元産の徳次郎石(大谷石の一種)で化粧されています。
【2】徳次郎石は加工しやすいため、窓飾りや付け柱など、曲線を多用した装飾にも利用されました。
【3】驚くべきはこの屋根。徳次郎町西根は日本屈指の石屋根の密集地帯ではないでしょうか。

大谷石は明治以降、建築資材として大量に採掘されました。その分布は宇都宮市の大谷町を中心に東西8キロ、南北37キロにまたがっています。徳次郎は大谷石の分布の北限にあたりますが、大谷町で採れる石よりもきめが細かいことから「徳次郎石」と呼んで区別されています。白みが強いことも特徴で、装飾に映えることから好んで使われました。


石造りの主屋もある

徳次郎は宇都宮市の北西部にあり、明治時代までは6か村に分かれていました。その中の西根に徳次郎石の町並みが見られます。徳次郎石は加工が容易で火に強いことから、江戸時代から蔵の建材として重宝されました。西根に多いのは、ここから1キロほどの門前地区に昭和初期まで石工の集落があったことに由来するようです。

西根の石蔵をよく見ると、躯体を石で建てたものと、板倉の外壁に化粧石を張ったものの2種類があることに気付きます。
右写真の蔵は石材の並べ方が自由で、隣り合う石どうしをかすがいで留めていますから、化粧石として張られていることが分かります。


庇まわりも石を加工して木造建築風に仕上げている


しっくい目地の幾何学模様が美しい。屋根は石葺きだ

左写真の手前の蔵も石材の目地をしっくいでつないでいるので、おそらく化粧石でしょう。瓦をしっくいでつないだものは「なまこ壁」といいますが、これも一種のなまこ壁でしょうか。いずれにしろ石の里、宇都宮らしい建築ですね。

板倉の外装に化粧石を張ったものは、石材を馬で運んでいた明治中期まで行われた工法です。馬車や軌道が発展し、重い石を容易に運べるようになると、蔵全部が石で建てられるようになりました。右の蔵は、そんな新時代に登場した石積みの蔵です。

徳次郎石は軟らかく加工しやすいため、変化に富んだ装飾が施されている点も特徴。幾何学模様が施された門柱や、優美な曲線を描く石塀、洋風の付け柱、木造建築を模した庇など、思い思いの装飾を見ることができます。


【住所】栃木県宇都宮市徳次郎町
【公開施設】なし
【参考資料】
「日光街道を行く、大谷石の道 徳次郎石」伊藤利光著
『写真でみる民家大事典』日本民俗建築学会編、柏書房、2005年

2013年10月13日撮影


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