大木須
おおぎす

実用を兼ねたシンボル

八溝(やみぞ)山地は関東地方屈指の古集落の宝庫。栃木県最東端の大木須集落には、せいがい造りの豪華な長屋門を構えた農家が見られます。

【1】大木須には家格を示す長屋門をもつ家が多く、通路部分を二重、三重のせいがい造りにした豪壮な門も見られます。
【2】八溝山地は葉たばこの生産地。長屋門は葉たばこの乾燥・収納スペースも兼ねていました。
【3】大木須の農業を支えたのが、この山林。葉たばこは多量の肥料を必要とする作物で、落葉樹の葉が堆肥にあてられました。

大木須は那須烏山市の最東端にある、周囲を八溝山地の山林に囲まれた集落です。南流する木須川(那珂川の支流)に沿っておよそ5キロにわたって散村的に集落や農家が点在し、古い長屋門や板倉、石蔵などが現存しています。


大木須の集落景観

山あいの土地に長屋門が点在する

参考資料の「八溝山麓の伝統的木造家屋群 栃木県那須烏山市大木須地区の長屋門」(2012年)によると、栃木県は長屋門をもつ農家の比率が高い地域だそうで、那須烏山市内に81棟、うち大木須に12棟が現存しているそうです。大木須の長屋門の中には江戸時代中期にさかのぼるものもあり、多くは家格を示すために建造されたといいます。

しかし実際のところ、大木須の長屋門は、すべてが葉たばこの乾燥・収納空間としても使われていました。
葉たばこは八溝山地を代表する農作物で、江戸時代初期には茨城の赤土(あかづち)村で栽培が奨励されていました。大木須で栽培が始まったのは幕末のこと。稲作に替わる重要な換金作物でしたが、葉たばこは連作を嫌い、稲の数倍の肥料が必要でした。この栽培を支えたのが八溝山地の豊かな山林で、落葉樹の葉が堆肥として使われました。


大木須でも規模の大きなN家長屋門


N家主屋。長屋門のみならず歴史的な主屋も多い


三段のせいがい造りになっている

大木須の長屋門の軒まわりは、みな出桁(だしげた)造りになっています。しかも中央の通路部分は二重、三重に桁をせり出し、非常に重厚なつくりになっているのが印象的でした。


門の周囲にははさ掛け用の木組みが組まれていた

歴史のありそうな主屋。軒下は出桁造りで、玄関部分は三重だ


石蔵のある家。左奥は長屋門で、腰壁が石造りになっている


【住所】栃木県那須烏山市大木須
【公開施設】なし
【参考資料】
「八溝山麓の伝統的木造家屋群 栃木県那須烏山市大木須地区の長屋門」山本美穂・平野和隆著、『林業経済』第65巻第5号(2012年8月)所収

2013年10月13日撮


戻る