日蔭
ひかげ

倉の三重奏

日蔭の民が生んだすぐれた木工技術の結晶が、角(かく)寄せの板倉。その祖形である繁柱(しげばしら)の板倉、発展形である石張り板倉とともに、美しい三重奏を奏でています。

【1】柱を密に組んだ繁柱形式の板倉。柱の間隔が狭いのは耐久性と防犯性を高めるためです。
【2】繁柱板倉の進化形が、この角寄せ板倉。構造柱の間にも角材を並べ、平面全体を柱で構成します。
【3】時代が下って石材が入手しやすくなると、外壁を石で補強した板倉が増えました。

平成の大合併まで「栃木県で最後の村」として存続していた塩谷郡栗山村。その中ほどにある日蔭集落は、隙間なく柱を並べた角寄せ板倉の発祥地とされています。
木材は横に寝かせて重ねていくほうが技術的にやさしいのですが、縦に並べたほうが狂いは少ないそうです。日蔭は森林資源が豊富で、日光東照宮の参拝客のための木工容器の材料産地として栄えました。山林に生きた日蔭の匠が、技術的に難しい角寄せ板倉を生んだのです。


日蔭の角寄せ板倉。下屋が傷んでいるが、何とか保存・維持してほしい

角寄せ板倉は壁面全部が柱でつくられ、いかにも頑強そのものです。しかし構造上の柱は数本に1本で、それ以外は防犯・防火性能を高めるためのもの。左の倉は4本おきに貫が入っていますが(マウスオーバーで貫の場所を示します)、これが構造上の柱というわけです。

日蔭には角寄せ板倉の先祖ともいえる繁柱板倉(発祥地は東北地方)や、進化形の石張り板倉も見られます。石張りの倉は一見すると「石蔵」ですが、石材を固定するための“かすがい”が打ち込まれているため、通常の石蔵とは区別できます。


石張りの板倉

繁柱板倉


トタンで覆われた茅葺きの家

日蔭集落のことは、建築家・安藤邦廣氏の快作『小屋と蔵』で知りました。訪れてみると、集落景観も見事ではありませんか! 主屋の屋根がトタン葺きである点は残念でしたが、平屋の家が蔵とともに点在する昔ながらの風景を堪能できました。
日蔭は秘湯として人気の川俣温泉に向かう県道23号沿いにあります。温泉へ行かれる方は時間をつくって散策してみてください。

低層の民家が集まった一角

道路に面して蔵が点在する


【住所】栃木県日光市日蔭
【公開施設】なし
【参考資料】
『小屋と倉』安藤邦廣・筑波大学安藤研究室著、建築資料研究社、2010年

2014年10月12日撮


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