三津谷
みつや

なぜレンガ造りなのか

蔵の町・喜多方にはいくつもの魅力的な町並みがありますが、ひときわ異彩を放つのが三津谷です。わずか5戸の小集落でありながら、すべての家がレンガ蔵をもち、まるでヨーロッパの片田舎のような風景をつくり出しています。

【1】三津谷の最大の特徴はレンガの蔵。建材は地元産です。
【2】窓のかたちやコーニスの仕上げなど、家ごとに異なるデザインをもちます。
【3】レンガ蔵ばかりが注目される三津谷ですが、主屋もなかなか立派。レンガの間に間にのぞく真壁がとてもきれいですね。

喜多方郊外の田園地帯に、突如赤レンガの蔵並みが現れます。この独特の風景が生まれたのは明治30年代のこと。1890(明治23)年に三津谷で創業した樋口窯業にて、岩越鉄道(現・磐越西線)の建設を見込んで生産されたレンガが、蔵の建設用に転用されたのです。
しかしこの経緯については、資料によってまったく異なる説明がなされています。


軒下仕上げや窓のかたちなど、蔵によって細部のデザインが異なっている


ラーメン店「赤れんが」として営業中の蔵

喜多方市教育委員会による町並み調査報告書によると、喜多方の粘土は不純物を含んでいたためレンガは焼きムラを生じてしまい、売れ行きは芳しくありませんでした。それで仕方なく、地元に払い下げて蔵の建材になったのだそうです。
報告書では「レンガ蔵は建てたくて建てたのではない。つくらされたのだ」という住民の述懐が紹介されています。

いっぽう『日本一の蔵めぐり 会津喜多方の迷宮』(須磨章著)には、「鉄道建設用のレンガが流れてきたのではない」と書かれています。その根拠として、岩越鉄道のルートが決まる2年前に、喜多方では初期のレンガ蔵が建てられていること、また、三津谷の樋口窯業は規模が小さく、そもそも鉄道用の大量のレンガをつくることができなかったことが挙げられています。


若菜家住宅の蔵

真相がどちらなのか、資料を読むだけでは分かりませんが、三津谷の蔵並みを見ていると、「そんなこと、どうだっていいや」という気になってきます。
理屈抜きで、ここの蔵並みは美しいのですから。


真壁造りの若菜家住宅主屋


集落全景。緑を背景に、赤レンガと赤瓦が映える


集落の南500メートルにある樋口窯業の登り窯。赤レンガはここで焼かれた


【住所】
福島県喜多方市岩月町宮津勝耕作
【公開施設】若菜家
【参考資料】
『喜多方の町並 伝統的建造物群保存調査報告書2(杉山と三津谷)』喜多方市教育委員会、1982年
『日本一の蔵めぐり 会津喜多方の迷宮(ラビリンス)』須磨章著、三五館、2008年

2013年6月2日、3日撮影


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