前沢
まえざわ

家の平面はL字型

前沢にはL字平面をした中門造りと呼ばれる農家が現存しています。これらは1907(明治40)年に全村焼失後、2〜3年以内に再建されたものです。10棟もの茅葺き農家がひしめき合う風景はたいへん貴重です。

【1】前沢の民家は2棟がつながったようなL字型。一回り大きなこちら側が居住スペースです。
【2】突出部には馬屋や便所が設けられました。
【3】突出部の妻面を見ると、水平材が何層も重なっています。構造上必要な梁は必ず3本あって、「3段梁」と呼ばれます。
【4】「3段梁」の間に水平材を入れ、装飾としている家が多々あります。このお宅はなんと9段梁!
【5】妻面最上部にもさまざまな装飾があります。中には寺院建築で見られる「かえるまた」をもつ家もあります。

福島県の会津地方、新潟県の魚沼地方、秋田県・山形県の内陸部では、中門造りと呼ばれる独特の農家が建てられました。平面がL字型をした「曲がり家」で、突出部に馬屋や便所を設けた大型の民家建築です。こうした家はもともと長方形の直家(すごや)でしたが、冬期の作業場として雪除けの庇を常設したことに端を発し、徐々に中門造りの家に進化していったと考えられています。


水路が引かれた前沢集落


真壁の家々が並ぶ

曲がり家といえば岩手県の「南部曲がり家」が有名ですね。中門造りは南部曲がり家と瓜二つですが、突出部の用途が異なります。南部曲がり家は突出部をすべて馬屋とし、L字の屈折部に玄関があります。
対して中門造りでは突出部の先端に玄関があり、その内部は納屋、馬屋、便所などの多機能空間となっています。

中門造りの本場として知られる地域のひとつに新潟県の魚沼地方がありますが、茅葺きの中門造りが多く残る集落といえば、全国でも前沢をおいてほかにありません。現存する前沢の農家は、1907(明治40)年に集落を全焼した火災後に再建されたものです。すべての家が火災から3年以内に再建されたことで、統一感のある集落景観がもたらされました。


正面の水平材の本数が最も多い9段の家(メイン写真【4】の家)

こちらは水平材が3段の家(メイン写真【3】の家)

集落再建には越後の大工もかかわったといわれています。しかし前沢の中門造りは、いわゆる「魚沼型」とは異なっています。主な相違点が、軒が高く、棟も高いこと(魚沼型は軒が低く、棟が高い)。そして、妻面に明かり取りの窓をもつことです(魚沼では妻側が寄棟のものが多い)。

前沢の中門造りは妻側が切妻になっているため、多彩な妻飾りを可能にしました。最も目につく装飾が、縦横に引かれた柱と梁です。構造上、梁は最低3本必要でしたが、それ以上に飾り梁を何本も入れた家が見られます。
また、妻面の上部に木連格子を入れたり、右の家のように「かえるまた」の彫刻を入れた家までありました。


妻面に「かえるまた」を採用した家(メイン写真【1】【2】の家)


窓の上の波模様と「水」の字は火除けのまじないだろう


舘岩(たていわ)曲家資料館の馬屋

ところで、このページのトップ写真は、前沢集落の向かいにある山の中腹から撮影しました。2013年に訪れたときは草がぼうぼうの獣道をひたすら進むしかなく、途中で「道に迷っているのではないか」と不安になるほどでしたが(右写真)、1年後に再訪してみると、歩きやすく整地されているではありませんか!
重伝建になり、訪れる人が増えると、こうしたところも変わっていくのですねぇ。


展望台が整備される前の集落俯瞰ポイント


【住所】
福島県南会津郡南会津町前沢
【公開施設】舘岩曲家資料館(冬季休館)
【参考資料】
『前沢曲家集落保存対策調査報告書』福島県南会津町、2010年
『写真でみる民家大事典』日本民俗建築学会編、柏書房、2005年

2013年6月9日、10月27日撮影、14年9月23日撮影


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