古屋敷
ふるやしき

ニッポンの村の物語

ドキュメンタリー映画『ニッポン国 古屋敷村』の舞台となった古屋敷では貴重な茅葺き集落の風景を残そうと、さまざまな策が練られてきました。しかし残念ながらいままさに、多くの家が土に帰ろうとしています。

【1】茅葺きの家は妻側の屋根を切り上げ、窓を設けています。2階に光と風を通すためのもので、かつて養蚕が盛んだったことを教えてくれます。
【2】主屋に隣接して蔵を建てます。主屋と蔵は屋根付きの渡り廊下で結ばれています。
【3】トタンで補修された家もあります。

古屋敷が全国でも貴重な茅葺き集落であることは早くから見出され、1980〜81(昭和55〜56)年には住民の暮らしぶりをとらえたドキュメンタリー映画『ニッポン国 古屋敷村』(小川紳介監督、1982年)が撮影されました。このときすでに集落は存続が危ぶまれる状況にあり、ほどなくして空き家が増えていきました。なお同作はベルリン国際映画祭で、国際批評家連盟賞を受賞しています。

1987(昭和62)年、上山市のホテル古窯が7軒の古民家を購入します。同社では古民家を飲食店や資料館として次々とリニューアルし、一時は観光地としてにぎわいを見せました。ところが7軒の茅葺き民家のメンテナンスに莫大な費用がかかり、同社の経営を圧迫したことから、2000年に事業は中止されました。

その後、傷んだ建物が倒壊する恐れが高まったことを受け、地元有志が「古屋敷村の保存を考える会」を組織。ホテル古窯に掛け合い、古民家を修復したり、集落を舞台にイベントを開催するようになりました。しかし建物の老朽化は予想以上に進んでいて、2013〜14年の雪で「民具資料館」が崩壊。「真壁仁記念館」は2015年現在、大棟がかしいで、危険な状態にあります。


真壁仁記念館

トタンで修復された家。蔵が渡り廊下でつながる

現在、古屋敷村にはIターンされた方が1世帯居住するのみ。そのほかの家はかつての住民が不定期で畑仕事をする程度になっています。集落内にトタンで修復された家は3軒、茅屋根を見せる家も3軒あります。しかし茅屋根の家はどれも半壊状態で、「こんどの雪で完全に落ちてしまうのではないか」と思わせる姿でした。


2軒の茅葺き民家はどちらも半壊状態


集落内を用水路が流れる
古屋敷はわたしたちに、たくさんのことを教えてくれます。
“結”が失われると、またたく間に集落は荒廃すること。莫大な資本を投入しても、荒廃のスピードを緩めるのは困難なこと。観光による収益は一過的なものであること……。
せめてトタンで修復された家が継承されることを願ってやみません。何しろここは、日本の村の象徴として世界に発信された集落なのですから。


大型の民家。表側に格子戸を入れる


【住所】山形県上山市大門古屋敷
【公開施設】なし

2015年7月5日撮


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