胆沢扇状地
いさわせんじょうち

イグネとキヅマの風景

日本最大を誇る胆沢川の扇状地には、これまた日本有数の規模を誇る散村が広がっています。

【1】吹き抜ける風から身を守るため、屋敷林が発達しました。ここは寺院ですが、民家と同じように西から北にかけて植栽を発達させます。この地方では屋敷林をイグネ(居久根)と呼びます。
【2】家と家の間は田んぼになっています。
【3】薪を詰めた塀。キヅマと呼ばれ、風除けと冬季の燃料確保を両立しています。

奥羽山脈に源を発し、北上川に合流する胆沢川の右岸(南岸)に、一辺20キロという広大な扇状地が広がっています。ここでは見事な散村景観を見ることができます。右写真は扇状地の中央付近にある見分森公園の展望台から、北側を見わたしたものです。


胆沢扇状地の景観

民家が点在する。屋敷林はそれほど密には植えない

砂礫層の広がる扇状地は栄養価が乏しい反面、地下水脈が浅く、水を得やすいという利点があります。このため早くから人々が定住したと考えられていますが、なぜ散村をなしたのかは分かっていません。

胆沢扇状地は奥羽山脈の東の麓に位置し、冬になると西からの季節風が吹き抜けます。数百メートルおきに点在する住宅は風の直撃を受けるため、屋敷林を発達させました。こうした屋敷林は東北方言でイグネと呼ばれます。


長屋門をもつ家

キヅマのある家。現在、農家レストラン

屋敷林は全国の散村で共通して見られますが、胆沢扇状地にはもうひとつ、当地でしか見られない風除けのシステムがあります。それがキヅマと呼ばれる、薪を組んだ高さ1.5メートルほどの塀です。屋敷林の枝葉が茂らない部分を補うとともに、冬の燃料の保管場所を兼ねたものなのですが、薪を縦横に組んで幾何学模様を描いているのがとてもきれいだと思いました。


薪を規則正しく組み上げたキヅマ


農家レストランの向かいのイグネのある家

胆沢扇状地は、見分森から俯瞰すれば見事な散村景観を見られますが、山を下りて大地に降り立つと、そこには必ずしも伝統的な景観とはいいがたい風景も広がっていました。昔ながらの民家は決して多くはありませんし、ましてや薪を使う機会が減っているいま、キヅマも減少の一途をたどっています。日本を代表する散村景観を維持するため、包括的な政策が必要だと感じました。


キヅマのある家


【住所】岩手県奥州市水沢区見分森ほか(俯瞰地点の地図
【公開施設】なし
【参考資料】
胆沢ダム工事事務所->日本最大級の胆沢扇状地の謎に迫る

2015年8月3日撮


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