鶴田町
つるたまち

民芸風の家

津軽らしい風景といえば、りんご畑に地吹雪、そして茅葺き民家ではないでしょうか。郊外に出ればそこかしこで昔のままの茅葺き民家を目にします。鶴田町も、そんな茅葺きの宝庫です。

【1】大性(だいしょう)集落にて。2棟の茅葺き民家が並び建っていました。
【2】玄関入口には切妻の屋根を掛けます。冬のあいだも出入りを容易にするためのもので、鶴田町に限らず、青森県の民家の標準装備となっています。
【3】大棟には煙出しの腰屋根を載せます。腰屋根にも大棟風の装飾があり、建築士の川島宙次はこれを「民芸風」と表現しました。

鶴田町は津軽半島の付け根にある町です。人口はおよそ1万3000人。平成の大合併では板柳町や五所川原市との合併を協議しましたが、実現しないまま現在に至っています。ここは茅葺き民家の宝庫で、Googleアースで見る限り、少なくとも20棟は現存していると見受けられました。


茅葺き民家が道沿いに3棟残る(大性)

この家は2カ所の出入口とも切妻屋根を設ける(妙堂崎)
津軽の民家の特徴といえば、入口玄関の切妻屋根。降雪・積雪時にも出入りの通路を確保すると同時に、部屋へ上がる前に雪を落とすための場でもありました。各地の豪雪地帯で見られますが、わたしの印象では妙に青森県で目につくような気がします。

屋根はほとんどが素朴な寄棟造りですが、大棟にかわいらしい煙出しの腰屋根を載せています。この腰屋根も独特のデザインで、川島宙次は「板葺きの木棟を長く反らした民芸味ゆたかな荷鞍破風」と説明しています。荷鞍破風とは腰屋根を指す津軽地方の呼び名です。


川島に民芸を語らせた腰屋根(妙堂崎)

茅屋根は真壁との相性もいい(間山)
茅葺き民家は鶴田町のほぼ全域に点在し、まとまって見ることはできませんが、大性、野木、妙堂崎では集落内に複数棟を見ることができました。なかでも古風を保っていたのが野木と妙堂崎で、川島が書いたままに「板葺きの木棟」をいただいた腰屋根が見られました。


この家も大棟と腰屋根が板葺き(野木)


左写真の家の軒下。なんと三重せいがい造り(野木)
茅葺き民家は近隣の板柳町や旧柏村(つがる市)にも集中しています。旧柏村で土地の人に聞いたところ、このあたりは職人の腕がよく、一度屋根を葺けば50年はもつのだとか。ちょうど話をうかがった場所に建つ家も、戦後に建てられたのち、数年前に最初の葺き替えを行ったばかりだと聞きました。
出入口を2カ所突き出す(野木)


外構を直しても屋根は茅葺きのまま(大性)


県天然記念物のモミの巨木がある家(妙堂崎)


妻側をかぶと造りのように切り上げている(妙堂崎)


田んぼに囲まれた茅葺き民家(廻堰)


【住所】青森県北津軽郡鶴田町(地図/大性野木妙堂崎
【公開施設】なし
【参考資料】
『滅びゆく民家 屋根・外観』川島宙次著、主婦と生活社、1973年

2016年9月19日撮


戻る