金屋
かなや

蔵並みは威風堂々

平川市の外れにある金屋は登録有形文化財の密集地帯。2016年9月現在、その数は40件にのぼります。そしてそのすべてが土蔵というから驚きです。

【1】道路に面するところに土蔵を、敷地の奥に主屋を建てます。このためほかの町では見られない、堂々たる「蔵並み」が形成されました。
【2】平入りの土蔵が多いようですが、妻入りのものもありました。いずれも道路側に開口部を設けます。
【3】扉や窓まわりには鏝絵(こてえ)が入れられます。

金屋はリンゴ農家の集落。近年、農業体験のできる民泊で売り出し中ですが、各農家が構える立派な土蔵をめぐるツアーも人気です。ここでは敷地の道路側に土蔵を建てているのが特徴。主屋は後ろにあるので、一見しただけでは「蔵だけの町並み」にも見えます。


金屋の蔵並み


波を描いた鏝絵が多い。火除けの思いを込めたのだろう

土蔵では収穫したリンゴを保管しました。多くは明治時代から昭和中期にかけて建てられましたが、中には江戸時代にさかのぼるものもあります。特徴は開口部の造作。観音開きの土戸の内側や、笠木状の窓枠に鏝絵を入れます。また、鉢巻き(屋根下の段をつけた部分)も蔵ごとにデザインが異なり、見応えがあります。


土扉の内側にも装飾を入れる


この蔵は鉢巻きにも鏝絵を入れている


洋風の隅柱をもつ蔵。鉢巻きは7段ほどもある

主屋はほとんどが現代風に改築されていますが、茅葺きの家も2軒見られました。右写真は松田家住宅で、桁行13間の大規模なつくりです。屋根裏はせいがい造りとし、大棟の上には、この地方でハッポウと呼ばれる煙出しの腰屋根が載っています。


松田家住宅

茅葺きの家
ところで金屋について調べていくと、昭和30年代に村ぐるみで行われた「尾上町長選挙違反事件」という出来事に行き着きました。投票率は実に92.74%。現職のK氏が、新人のY氏をわずか72票差で振り切って再選した選挙なのですが、逮捕者13人、検挙者423人を出しています。選挙戦ではK派が金屋の全戸に砂糖を1箱ずつ、Y派が八幡崎(やわたざき)でふろしきを配り、票が2000〜3000円で取引きされたとのことです。……以上、町並みとは関係のない小ネタでした。

トタンで覆われた家も多く残っている

トタン民家の腰屋根。「カギ又」と読むのか、屋号だろう


【住所】青森県平川市尾上町金屋(地図
【公開施設】なし(ガイドツアーを実施)
【参考資料】
『青森県百科事典』東奥日報社、1981年

2016年9月19日撮影


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