尾白内
おしろない

出窓から何を見たのか

北海道森町の郊外に、出窓をもった平屋民家が点在しています。大正・昭和初期にイワシ漁で財をなした漁師が、思い思いに意匠を凝らして建てた家です。

【1】漁師が建てた切妻、平入りの家。中央に破風のある座敷玄関を構えるのが、森町や函館市など渡島地方の一般的な構造です。
【2】尾白内には玄関の両脇に出窓をもつ家が見られます。出窓があるのは応接間で、多くは台形の断面をもちます。
【3】こちら側に海があります。応接間の出窓は、景観を楽しむためのものだったようです。

森町の市街地は噴火湾(内浦湾)に沿って帯状に広がっています。その東の外れにあるのが尾白内で、大正〜昭和初期の漁家建築が散見されます。
このあたりの漁家は渡島地方で広く見られる形態的特徴をそなえています。外観は切妻屋根の平入りで、中央に破風の付いた座敷玄関をもち、その横に出窓があります。


F家住宅。玄関の両側に台形の出窓を付ける

玄関を挟んで表側一面が出窓になっている
明治〜大正期の古い漁家は出窓ではなく、格子窓をもつのが一般的でした。その後、昭和初期にかけて建てられた漁家では、玄関を挟んで一対の出窓をあしらうようになりました。この理由について道都大学の佐藤修教授は、「屋外への眺望を優先させたためか」と考察し、室内における視覚的効果を指摘しています。
噴火湾は大沼とともに道南屈指の景勝地です。この地に暮らす漁師たちも、雄大な湾の眺めを楽しんでいたのかもしれませんね。
尾白内の漁家群は、何ら保護策も講じられないまま今日に至っています。わたしが訪問したときには、佐藤教授が調査し、論文に掲載した民家のいくつかはすでに失われていましたし、現存する家も外観が大きく改装されていたり、廃墟となった家もありました。
向かって右側にのみ出格子窓がある


【住所】北海道茅部郡森町尾白内町
【公開施設】なし
【参考資料】
「昭和初期における森町市街地の商家建築及び漁家建築ファサードの洋風要素の特性について」佐藤 修著、『日本建築学会計画系論文集』546号(2001年8月)所収

2014年1月4日撮


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